織姫と彦星の物語
誰が考えたか知らないけど
なんて短冊に願いを書くと願いが叶うんだろう?
誰が叶えるんだろう?
織姫と彦星が叶えるのかな?
そもそもさ、その後のふたりの人生なんて
みんな知らないわけだしさ
どうもエコ犬です
「織姫!待ってくれ織姫!」
男はそう叫び、その場に崩れ落ちた。普通なら去っていく女の後を追いかけて抱きしめる事も出来ただろう。だが彼には出来なかった。
足元に流れるのは無数の星々。そして時間は0時丁度。彼は彦星。天の川によって引き裂かれた二つの星のひとつ。
織姫と彦星の愛は永遠のものだと誰もが思っていた。実際、二人の愛の深さは人間の人生の長さなど比ではなかった。一年に一度の逢瀬であれ、二人は激しく愛し合った。一年分の愛を一日に凝縮するように。そして、大切な一粒種。織彦を授かっていた。
だが、時とは残酷なもの。二人の愛はいつしか冷めてしまっていた。そして、ついに彦星は他の星に手を出してしまった。
出来心とはいえ、冷め切った夫婦関係での失態。彼は離婚を言い渡され、養育権を奪われ、慰謝料、養育費まで請求されていまった。
7月7日夜。ある男の物語。
「織姫!待ってくれ織姫!」
男はそう叫び、その場に崩れ落ちた。普通なら去っていく女の後を追いかけて抱きしめる事も出来ただろう。だが彼には出来なかった。
手元には携帯。そしてここは地上。彼はかつて彦星と呼ばれたもの。天の川によって引き裂かれた二つの星のひとつだったもの。そして、今はただの人間。
男は駅のホームにいた。仕事帰りのサラリーマン。黒く焼けた肌の学生。浴衣を着たカップル。周りは人でごった返している。膝を付いた男に目をやる事はあっても、声をかけるものは誰もいなかった。
男は無言で立ち上がり歩き始めた。人々の流れに合わせホームにある階段を上る。自動改札にキップを入れ今度は階段を下る。
駅から出ても大量の人。男はうんざりしながらも流れに任せて歩き出す。左右には延々と出店が連なり、空を見あげると竹に吊るされた色とりどりの飾り。
『短冊一枚300円(うちわ付き)』と書かれた看板を掲げた出店では、子どもたちや、若い男女がマッキーを片手に持ち、真剣に、そして楽しげに短冊に願いらしきものを書いている。横には竹が立ててあり、そこに短冊を吊るす仕組みらしい。
「誰が願い事をかなえてくれるんだよ。」男はそう小さくつぶやき、人の流れとは違う横道へと進路を変えた。
横道は先ほどの通りよりも静かで、テキ屋の出店というよりは、元々そこにあった店舗が出店を出してるといった感じであり、品揃えもビールや焼き鳥、オシャレなカクテルとバリエーションに富んでいた。「ジーマレモンひとつ」男は酒を呑みながらも歩き続けた。
20分ほど歩いただろうか。男はロイヤルホストに足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
「ひとりで。・・後からもうひとり来るから」
店員に通された窓際のテーブル席。そこで男は空を見上げた。「くもり・・・か」満員の店内で、そこだけは別の世界かのように、じっといつまでも晴れる事の無い空を見上げていた。
「お客様・・・お客様!」
「なに?」
「そろそろ閉店のお時間ですが」
「あ・・ぁぁ」
店内は店員と男だけ、他の客はいつのまにか居なくなっていた。男は仕方なく店を出る。そして再び空を見上げて、先ほどの織姫との電話を思い出していた。
「どういう事だよ!年に一度は会わせてくれるって言っただろ!」
「言ったわよ。でも、それは7月7日に天の川が見えたらって事なのよ。」
「なんだよ!それなら織彦と会えないかもしれないって事か?ふざけるな!」
「ふざけてないわよ。私たちの時もそうだったでしょ。」
「今はあの時と違う。頼む!会わせてくれ!」
「あの時も、それぐらい私を大事に思ってくれたなら、もっと違ったんでしょうね。」
「だから悪かったって言ってるだろ。たのむよ。」
「はぁ・・・。天の川が見えたら会わせてあげるわ。それじゃサヨナラ。」
「織姫!待ってくれ織姫!」
7月7日それは七夕の日。彦星が息子と会える日。慰謝料と養育費で給料の大半が消えてしまう彦星が、精一杯の努力でロイヤルホストに息子を呼び、メシをおごる日。
「雨・・・か」急に降り出した雨に打たれながら男は来た道を歩きだした。出店は全て閉まり、あたりに人影はまばら。『短冊一枚300円(うちわ付き)』行きに見た看板が目に入り、男はふらりと横に立ててある竹の短冊を見た。「雲が消えて、織姫さまと彦星さまが会えますように。」
「誰が願い事をかなえてくれるんだよ。」
男の目からは、空から降る雨よりも大粒の雨が降りだしていた。
みたいな人生になってるかもしれないわけよ
自分で書いてテンションだだ下がり
テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
